会計制度とリース


借り手の会計処理


米国のリース会計は1976年に公表されたFAS No.13 Accounting for Lease に従がって処理されている。その後に部分的な改正などが行われているが基本的な考え方は変わっていない。FAS13ではリースを借り手(lessee)と貸し手(lessor)の立場からいくつかに分類している。借り手についてはリースはキャピタル・リースとオペレーティング・リースに分類される。この分類の基準としては次の4つの条件の一つでも該当するリースであればキャピタル・リースに該当し、どの条件にも該当しなければオペレーティング・リースとして分類される。

最近になってリース会計基準は国際会計基準(IFRS16)や米国会計基準(ASC842)が新たに公表されて大きく変わってきており原則としてオペレーティングリースであれキャピタルリースであれ借り手は資金調達して資産を購入したと同様の会計処理が必要となり、資産や債務、減価償却等の処理が必要となる。
日本でも企業会計基準委員会からリースに関する会計基準(案)が2023年5月2日に公表されている。(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2023/2023-0502.html を参照)。パブリックコメントを聴取、検討してから改訂会計基準が近い時期に適用されることになるだろう。日本でも今後は会計システム変更などの対応が必要となってくるだろう。

以下では新しい国際会計基準等を前提としてリース会計の基本的な処理を考えることにする。新会計基準では借り手にとっては将来の支払いリース料を一定の割引率で割引計算して現在価値を求め、それを貸借対照表に計上、いわゆるオンバランスする必要があり、借り手の会計処理は、資産と負債の計上、減価償却計算、利息法による金利計算などが必要となる。使用権という資産を取得したと考える会計処理で使用権モデルと呼ばれている。


A 簡単な設例

借り手(12月決算)は貸し手(リース会社)と次のような契約を結んだ。

リース資産(機械)の時価 100,000円
リース開始日 2020/1/1
リースは解約不能でリース期間は5年間
リース料はリース開始とともに支払う。
年間リース料は22,396円で年初払い
経済的耐用年数  5年
減価償却法は定額法で残存価額  ゼロとする。
計算利子率は6%。

(1)現在価値計算
22,396円について6%で割引くが、年初払いなので初年度の割引は(1+0.06)^0最終期は(1+0.06)^4で計算することに注意して
22396/(1+0.06)^0+22396/(1+0.06)^0+..+22396/(1+0.06)^4現在価値を求めると丁度100,000円となる。
使用権資産(right of use asset, ROU assetと略される)の時価は100,000で 同時にリース負債(lease liability)も100,000円となる。

(2)利息法による金利計算
当初のリース負債は100,000円であるが、リース開始とともに22,396円支払いリース負債の元本返済に充てられるので、リース開始時のリース債務残高は77,604円(=100,000-22,396)となる。従がって、初年度の支払利息は4,656(=77,604×6%)となるが、これは2021/1/1に支払われるので会計上は2020年末の未払利息となる。2020/1/1のリース料23,596円のうち支払利息4,656円を控除した17,740(=22,3963-4,656)が2021年のリース負債返済額となる。従がって2021年期首のリース負債残高は59,864円(=77,604-17,740)となり2021年の未払利息は
3,592円(=59,864×6%)となる。以下同様のステップで5年間計算する。

(3)減価償却費の計算
資産価額が100,000円、5年の定額法が最適とすれば1年間の減価償却費は20,000円(=100,000÷5)

B,財務諸表に及ぼす会計処理の影響

設例に関して2020年の会計処理を見ると次のようになる。
 

リース会計事例1


(2020年の損益計算書に計上される科目)
営業費用
減価償却費20,000
営業外費用
支払利息4,656
 
貸借対照表についてみるとリースの場合は
流動負債
未払利息4,656
リース負債(短期)17,740
が計上されるので、流動比率を悪化さす。
固定負債もリース負債(長期)59,864 だけ多くなり負債比率を悪化さす。資産については固定資産が簿価で80,000増加し総資産が多くなるのでROAや総資産回転率を悪くする効果が出る。新会計基準では原則としてリース取引のオフバランスが出来なくなるのでバランスシート面では財務比率計算で不利となるが、総ての企業に適用されるので企業間比較はしやすくなるかもしれないが、同一企業について時系列分析をする場合には注意を要する。
損益計算書に及ぼす効果はリース開始の初期のうちは支払利息部分が大きいが時間経過とともに減少していく。逆にリース負債返済額は当初は少なく時間経過とともに負債返済額が増加していくので、当初は純資産を押し下げるが時間とともに純資産を高める効果が見込める。支払利息部分は営業外費用となるのでその分だけ営業利益にプラス効果をもたらす。
キャッシュフローでに関してはリース負債返済も支払利息も財務キャッシュフローに記載されるので、営業キャッシュフローはその分だけ改善が期待できる。
C.アナリストの見方

新国際会計基準等ではオフバランス効果がなくなるため財務比率計算で不利となるケースもあるだろうが、逆に営業キャッシュフローの成績を良くすることもあり、また時間経過とともにその効果も変化してくるの簡単には有利不利の結論は出せないだろう。財務比率分析の影響については
リースのメリット、デメリット参照。

  先進諸国の資本市場はセミ・ストロング仮説に相当近い程度に効率的とされており、リース取引についてどのような会計処理をしても株価形成には差が生じない考えられる。機関投資家のアナリストは会計処理の影響を織り込みつつ注記情報(非財務情報も含めて)から企業の発表した財務情報を適当に修正して企業間比較分析を行っている。
 

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