モジリアーニ・ミラーの配当無関連性命題

モジリアーニ・ミラー(MM)は資本市場が完全で税金も存在しないなどの前提をおいた場合には、配当政策は株式価値に無関係であるとことを示した。企業が配当を支払えばその分だけ株価が下落し、株主の受け取る配当金額と株価減少額が相殺されて結局、株主の財産は変わらないという。企業が株価を高めるために大幅な増配を計画しても、MM 理論によれば、企業は増配資金を新株式で調達すれば、株式価値は増配しようが、しまいが変化しないことを示した。現実と世界とはかなり異なる仮定をおいた議論なので理解しにくいが、簡単な計算例で示すと以下のようになる。。

ある会社A社があり、1年後は清算することが決まっている。今期のキャッシュフローと来期のキャッシュフロー(清算分配金)はそれぞれ10,000円とする。キャッシュフローすべては配当として各期末時に即時に支払われる。株主の要求する資本コストは5%。完全資本市場だから市場参加者はすべて上記の情報は共有している。

今現在を当期末0、1年後の来期末を1で示すと各キャッシュフローとその現在価値を表にすると

モジリアーニミラー

株式価値=10000/(1+0.05)^0 + 10000/(1.05)^1=19523.81

発行株式数を1000株とすれば1株=19.5238円

A社は今期は1000だけ増配して株価を高めようと考えた。しかし今期の資金は10000しかないので、新株発行で不足資金を1000調達することにした。しかし、来期末のキャッシュフローは10000しかなく、新株に応じる新株主は5%の利益率を要求するので、来期末に新株主に支払う資金として1050(1000*1.05)を必要とするので、来期末のキャッシュフローは8950(10000-1050)となる。この状況を表にすれば

モジリアーニミラー

株式価値=10000/(1+0.05)^0 + 8950/(1.05)^1=19523.81

1株=19.5238 となり増配をしても株式価値に変化がない。

MMのいう配当無関連性命題が成立している。

新株に応じる新株主の立場からは今期末0に新株を取得しても今期0の配当はもらえないので来期末の予想キャッシュフロ-8950を資本コスト5%で現在価値に換算して1株は8950/1.05/1000=8.5238円で評価する。A社としては追加資金として1000円必要なので1000/8.5238=117.318株を追加発行することになる。新株主は1株8.5238円で投資して1年後は1株8.95円を得るので8.95/8.5238=1.05で5%の利益率を確保する。

翌年度末のキャッシュフローは10000で発行済株式数は1117.318(旧株主1000株+新株主117.318株)なので、その時点での1株当たり時価は8.95(10000/1117.318)となる。

このようなMM 理論の配当無関連命題が成立するためには、税金は存在しない、情報の非対称性は存在しない、取引コストは存在しない、資本市場が完全であるといった多くの前提の上に成り立っている。言い方を変えれば、これらの前提条件が満たされれば株主の立場からは会社の配当政策がどのようなものであっても自分の好みの配当政策に作り替えることができることを意味している。会社が無配の配当政策を決めた場合に10%の配当が欲しい株主は自分の持株を少し売却することにより10%配当相当のキャッシュを入手できる。会社の配当が過大だと思えば、過大と思う金額だけ当該会社の株式を追加購入することにより自分の好みの配当政策に調整することができる。このような調整ができるためには株式の売買手数料が存在しない、株式売却益に課税されない、といった前提が必要となる。手数料や税金がかかれば自ら配当政策を調整するには余計なコストがかかってしまい不利となるので配当無関連性の命題が成り立たなくなる。学術分野では様々に前提条件を変えた実証研究が多数に発表されており、いまなお配当無関連性に関する議論は続いている。

 

 

モディリアーニとミラー(MM)の定理(第1命題、第2命題)

 

 

MM第2命題(法人税あり)とWACCの関係を簡単な数値例で探究

 

 

 財務入門目次へ